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前ページ次ページBRAVEMAGEルイズ伝 第一章~旅立ち~ その1 ムサシ登場!! そして旅立ち 小規模なクレーターを前にへなへなと崩れ落ちる少女。 傍らには頭髪の寂しい男性、遠巻きに見つめるのはたくさんの少年少女。 その少女は幾度とない失敗により、爆風と嘲笑を浴びていた。 爆風、というのは彼女の発した魔法によるもの。 というのもピンクブロンドの少女、名をルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 名家ヴァリエール家の三女として、その才を遺憾なく発揮……していない生徒の一人である。 彼女の放つ魔法は、全て爆発という現象に現れる。 『開錠』を行えば扉ごと吹き飛ばし、『錬金』を使えば素材を粉微塵に破砕する。 それ故皆からの嘲りを浴び続ける学院生活を送っていた。 そして、長い一年が終わり進級試験、『春の使い魔召喚』の儀。 皆がルイズが再び一年生となるぞ、と囃し立てていた矢先のことだった。 いよいよ順番が最後、ルイズの番になり、杖を構える。 緊張の為か微かに震える手を振りかざし、呪文を唱え振り下ろし……虚空が爆発した。 まただ、ほらみろと嘲笑の声が飛ぶ。 何度となく、その光景が繰り返される。 次第に少女の慎ましやかながら可憐な容姿は土に塗れていく。 教師の静止も振り切り、傷だらけの体を奮い立たせて杖を振りかざした。 彼女の誇りが、諦めることを許さなかった。 「宇宙の果てのどこかにいる、私の下僕よ……神聖で美しくそして強力な使い魔よ!」 半ば涙目になりながら詠唱を行う。 決めたのだ。 ここで自分の忌まわしき異名を払拭するのだと。 初めての魔法はここで完成させる! その思いだけで、彼女は体を動かしていた。 「私の呼びかけに……答えてっ!」 杖を振り下ろすと、もう何度も体験した感覚。 目の前が白熱するだけ。 今までにない、一際大きな爆発だった。 いい加減にしろ、驚かせるなと心ない声が飛ぶ。 しかしややあって……皆が、沈黙した。 異様な静けさを感じたルイズが前を向くと、煙に遮られた何者かの陰。 「……やった……」 自分は成功したんだ。 このトリステイン王国の魔法学院に入学してから、ただの一度も成功しなかったこの自分が。 皆に不名誉な二つ名で嘲られ、幾度となく挫けそうになったこの自分が。 皆と同じ魔法を、使えたのだ。 失敗していたら留年となる所だったが、これで再び一年生をやらなくてもいい。 ひどく安堵し、よろよろと立ち上がる。 「……さあ、何なの……?私の、私だけの使い魔!」 期待に小さな胸を膨らませ、埃塗れのブラウスを叩く。 土煙が晴れ、その何者かの姿を初めてその目にした。 何か聞こえる、鳴き声だろうか。 いや、それにしては小さい、よく聞けば穏やかな呼吸音……いや、寝息? 「……子ども?」 驚愕する。 何しろ、目の前にいたのは眠りこけた少年。 小柄なルイズよりさらに頭一つぶんほど小さな少年だった。 しかも、なんともみすぼらしい格好の。 「おい、ぼろを着た子どもだ!」 「ゼロのルイズが物乞いのガキを召喚したぞ!」 「なっ……!」 異変に気がついた生徒達が、召喚対象である少年を見て囃し立てる。 ルイズは頭に血が上りかけたが、しかしよくよく見れば確かに言うとおり。 伸びっぱなしの長髪は頭頂部で束ねてあり、よれよれの上着に足にはボロ靴を履いている。 汚いベルトで留めた見慣れぬ装束を纏い、ひび割れた眼鏡を額にかけていた。 まず、いいところの出ではあるまい。 「おい!失敗したからってその辺の乞食を連れてくるなよー」 「さすがゼロのルイズ」 心無い言葉にきっと振り返るが、言い返すより早くルイズは教師に向けて叫ぶ。 「ミスタ・コルベール、やり直しを……!召喚のやり直しを、させてください!!」 「……残念ですが、それはできません」 「そんな!」 対してコルベールの返答は否定だった。 納得の行かないルイズは尚も迫る。 「人間を使い魔にするなんて、聞いたことも……!」 「だとしてもです。人間であろうと、召喚された以上は契約しなければなりません。 それにこのままではあなたは留年することになってしまいます。私としてもそれはとてもとても悲しいことです」 ルイズの悲痛な訴えにも、教師としてコルベールは首を横に振らざるを得なかった。 この春の召喚の儀式は神聖なもの、やり直しという特例は認められない。 彼女に残された道は、あの少年を使い魔とする他に無いのであった。 聡明な彼女はそのことを重々理解していた。 それ以上食い下がることもなくただただがっくり項垂れることしかできない。 やがて諦めたように、横たわったままの彼女の使い魔となる少年に歩み寄る。 「まったく、どこの子どもよ……なんでこんなチビっこなんかと、私が……」 サラマンダーやら風竜やらの素晴らしい使い魔を目にした後だからか、よけいに落胆は大きい。 やがて大きく溜息をつき、観念したように横たわる少年に顔を近づけた。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え我の使い魔と為せ」 唇と唇がそっと触れ合う。 異性とこんなことをするなんて生まれてこのかた初めてだったので、ひどく動揺する。 だが相手は子ども、それにこれは儀式上必要なことだ。 ノーカンノーカンとクールに振舞ってみるも、なんだかほかほかしてきた。 頬が熱くなっていることを自覚する。 自らぽかぽかと頭を叩いていると、少年が突然叫びをあげる。 「うわっちちちちちちぃーーーっ!!!」 「きゃ!」 思わぬ反応に思わずその場から飛び退いてしまうルイズ。 少年は熱の根源であろう左手を抑えて、熱さの余り転げまわっていた。 朱塗りの篭手を外すと息をふうふうと手の甲に当て続ける。 「だ、大丈夫?使い魔のルーンが刻まれているだけだから、すぐに済むわ」 「なんだぁ……?ここは、どこだ……?」 「ふむ、コントラクト・サーヴァントのほうは問題ありませんね。おめでとう」 やがて少年が大人しくなり、自分の手を見て目を見開く。 近くにいたルイズに気がつくときっと向き直り、ぴょんと軽い身のこなしで立ち上がった。 近づいてくるその身体はやはりルイズよりも小さい。 歳のころは10そこそこであろうか、意志が強そうな眉と瞳をこちらに向けた。 「やいお前!ここはどこだっ!おいらに何をしたっ!?」 「なっ……」 「……ああっ、よく見りゃ手にイレズミなんてしやがって!島流しにあった覚えはないぜっ!」 声変わりも澄んでいないであろうよく通る声で騒ぎ立てる。 明らかな年下、それも乞食かなにか身分の低いであろう者に怒鳴られたことに、 ルイズの頭はかっと熱を持った。 「へっ……平民の分際で、貴族にそんな口の聞き方を!」 「何ィ!?」 「ミス・ヴァリエール冷静に。ふむ、珍しいルーンですね」 肩の荷が降りたコルベールは、とりあえず目の前の少年に対する疑問はさて置いておく。 手早く少年のルーンを書き写して、見物していた皆に呼びかけた。 「これにて召喚の儀式は終了です。各自学院に戻るように」 呼びかけるとふわりと宙に浮かび、ここからも見える学院の大きな屋根に向かって飛び立った。 同じく生徒たちも空へと舞い上がるが、意地の悪そうな笑みを浮かべ口々に野次を飛ばす。 「ゼロのルイズ!お前は歩いて来いよ」 「『フライ』も『レビテーション』もロクに使えないんじゃあ仕方ないな!」 嘲笑を浴びるも、今は目の前の少年のことで頭がいっぱいなルイズは振り向きもしない。 しかし少年の方は、空中を見つめて驚いた表情だった。 「あいつら飛びやがった!妖術使いか?」 「……メイジが飛ぶのは当然のことじゃない」 「メイジだかショウワだか知らねえが、いよいよおかしいぜ!ここはどこなんだ?」 「はぁ……とりあえずついてきなさいよ、戻るから」 何も知らない使い魔に、やはり世間にも疎い乞食なのかと頭を抱え込む。 溜息を禁じ得ないが、頭から少しずつ説明してやりながら学院への帰路へついた。 「……でね、あんたは召喚されて、私の使い魔にならなきゃいけないの」 「召喚?おいら、また召喚されちまったってのかっ!?」 また?おかしなことを言うものだ。 そんなにしょっちゅう人間が召喚されるなんて聞いたこともない。 まあ、召喚を理解しているフシは説明が省けて好都合だ。 「物分りがいいじゃない、でね、あんたは私の使い魔として……」 「まあいいや。今度こそとっとと済ませて、こんな世界とはおさらばだぜ」 「ちょちょ、ちょっと。何言ってるのよ」 「ん?」 前言撤回。 自然と帰る流れになったのでルイズは慌てて止める。 この使い魔召喚が理解できていたり放棄する気でいたりといろいろおかしい。 ルイズのフラストレーションが積み上がっていく。 「あんたは私の使い魔をやってもらうのよ!何よおさらばって」 「だから、その用事を済ませりゃ元の世界に戻れるんだろ?」 「元の世界?ああもうわけわからないわね!あんたはずっと使い魔!ずっと!」 「なんだって!?ずっと!?」 「ずっとよ!」 「そんなバカな!」 「知らないわよ!こっちだって、あんたみたいなチビで! ヘンなモミアゲな奴なんか!召喚したくなかったわよ!」 「くっまたそう言われるのかよ!?なんだってんだこのチンチクリン!おてんば!」 「キィィィーーーーッ!」 爆発した。 小さいもの同士がぎゃんぎゃんと騒ぎ立てながら追い掛け回したり小突きあったり。 学院に帰るまで、それは続いた。 「……ぜい、ぜい、ぜい……」 「おい、大丈夫かい?」 「う、うる……さい……ぜんっぜん……大丈夫、よ……」 はたから見れば本当に子供の喧嘩のようなことを年甲斐もなく延々と続けてしまったルイズは、 やがてゼイゼイと息を整えながらルイズは立ち止まる。 少年はしばらく落着くのを待ってくれていたが、溜息をひとつ大きくついた。 「ま、いいや。終わっちまったことをいつまで言ってもしょうがねえ」 「へ?」 「使い魔だかなんだか知らないけど、おいらがやりゃあいいんだろ?」 「あ、ああそう……なによ急に」 実にあっけらかんと了承してくれたのは意外だった。 子供らしく聞き分けなく反発するか勝手にどこかに逃げ出したりするかと思っていたが。 彼は案外、さっぱりした人物だったのかと納得する。 とりあえずこれで留年する心配はなくなった。 「見たところ、空飛んだりなんだりで面白そうな奴らがいっぱいいるみてえだし」 「面白そうな……魔法をそんな言い方しないでよ、そりゃまいっぱいいるわよ」 少年の顔つきが変わる。 先程までの疑心を帯びたそれではない、もっと単純な感情。 心の奥から湧き出るような、原始的で直情的なその感情。 『楽しんで』いる。 ひとつの冒険は終わった。 しかし、彼の冒険が、また始まるのだ。 「妙にワクワクしちまうぜ!」 「……あんた変な奴ね……名前は?」 「人に名前を聞くときは、まず自分から名乗るもんだぜ」 「……ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」 少々ムッとしたが、これは正論だ。 若干ぶすっ面で返答する。 大して少年は、立派な髷をガシガシと掻きながら告げた。 後に伝説となる自らの名を。 「おいらはムサシ。よろしくなっ、ルイズ!!」 BRAVE MAGE ルイズ伝 >はじめから 前ページ次ページBRAVEMAGEルイズ伝
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前ページ次ページヘルミーナとルイズ ガリア王国、王都リュティス。 数ある酒場の中でも、中の上といった格付けに入る一軒。 様々な層の平民にお忍びの貴族、まっとうな商売人から人様には言えない仕事に従事するものまで、その客層は多種多様。 そこに旅から帰還したルイズたちの姿があった。 火竜山脈での『竜の舌』採集からは既に四日が経過している。 あれから山を下りて街へ戻った二人はそこで一泊宿をとり、ぐっすり眠ってからリュティスへの帰路についた。 当初はルイズが浴びた竜の血が酷い悪臭を発していたのだが、街に戻り次第それを捨てて新しい服を調達、念入りに湯浴みして香水をつてごまかすこと四日、ようやくその臭いからも解放された。 今ならこうして酒場にいても臭いのせいで目立つということもないだろう。 テーブルを挟んで向かい合っている美女二人。 ちびちびと舐めるようにして酒を飲むルイズと、ゆったりとした動作で時間をかけて杯を呷るヘルミーナ。 別に『祝杯』というわけでもない。 採集へ出かけて帰ってきた日の夜にはこうして酒場に足を向ける、これがこの三年間における二人の日常であった。 二人の錬金術師は現在このリュティスに工房を構えている。 表向きは薬屋として、裏では後ろ暗いマジックアイテムでも用意してみせる何でも屋として。 錬金術というものは何はともあれ金を食う、それがルイズが最初に学んだことだった。 魔法学院をあとにした二人は、道々で適当なアイテムを作ってはそれを売り払いながら路銀を稼ぎ、旅を続けた。 そうして辿り着いたのがガリア王国は王都リュティス。 人口三十万人を誇るハルケギニア随一の大都市、そこに二人は工房を据えることにした。 人が多く活気もある、これは裏を返せばろくでもない人間も多数集まっているということだ。 ヘルミーナとルイズは最初しばらくの間は宿に腰を据えて、こうして酒場に出入りして依頼人を捜すことを繰り返した。 そうやって一月もたつ頃には、街の大通りから一本入った通りに面した一軒家を借りられるくらいに、纏まった金が集まっていた。 この頃になると既にルイズは、錬金術というものが金になると学んでいた。 無事王都リュティスに工房を構えた二人は、今度は必要な機材を集めるための資金集めに奔走した。 昼間は薬屋として、夜は事情を聞かないで不思議なマジックアイテムを作ってくれる便利屋として、酒場ややってきた顧客を通じて積極的に宣伝を行った。 ヘルミーナの予想通りというかなんというか、ルイズがあっけなく感じてしまうほどに、二人の名は瞬く間にリュティスの裏側へと浸透していった。 何より二人にとって何より幸運であったのは、ガリア王国で常に燻っている政争の存在であった。 事情を詮索せずに、金次第ではどんなアイテムでも作ってくれる店。それは彼らにとっては実に歓迎すべき存在であったのだ。 官憲の手がまわりかけたこともあったが、そのうち何度かが勝手に解決されたことになっていたのは、お互いに持ちつ持たれつの関係を築けたという証左だろうか。 そうやって工房を構え、名前が売れてきてからも、ルイズたちは定期的に酒場に顔を出すことを欠かさなかった。 勿論営業努力という面もあったが、二人の本来の目的は金などではないのだから、その真の意味合いは情報収集にあった。 酒場の客や情報屋からえられる情報、そのうちに少しでも興味が引くものがあれば西へ東へ飛び回るのである。 この日も、新たなる情報と仕事の依頼を求めて顔を出していたルイズとヘルミーナだったが、結果は芳しくなかった。 こうなると特にやることもないルイズは酒を飲むことくらいしか時間をつぶす方法がない。 片手にグラスを持って、あまり美味しそうには見えない飲み方でちびちびと酒を舐める。貴族様が好んで飲むような高級ワインではない、平民も口にするような蒸留酒。 ルイズには酒の味は大して分からなかったが、ヘルミーナに言わせると値段の割には悪くないらしい。 手持ち無沙汰になった左手では手にしたネックレスを弄っていた。 アクセサリーのようなそれも、錬金術師としてルイズが制作したものの一つだった。 一見すると菱の形に整えられた黒い水晶、しかしその正体は錘の形の容器に入れられた黒い液体であった。 暗黒水。錬金術によって作られる毒薬の中でもとびっきりの劇薬である。 並の錬金術師には目にかかることすら適わない、大海原のように奥が深い錬金術の中でもかなり難しい部類に入るそれを、自前で作り出せる程にルイズの腕前は上達していた。 元々勉学に関しては得意な方であったルイズは、明確な目的を備えたことで錬金術という学問において目覚ましい成長を遂げていた。 ヘルミーナが言うには「私ほどじゃないにしろ、あなたも十分に天才ね」とのこと。 「あれ……おめぇ、娘っ子、ルイズ! ルイズじゃねぇか!?」 近くから、どこかで聞いたことがあるような声が聞こえた。 幻聴が聞こえるほどには飲んでいない。ルイズは左右を見渡して声の主の姿を探した。 「おい俺だ! 俺だよ! こっちだこっち!」 ルイズがそちらを向くと、隣でテーブルに突っ伏していびきをたて寝ている男の姿が目に入った。 「また、酒弱くなったのかしら」 元来強い方ではなかったのだが、ザルのヘルミーナに付き合っているうちに、多少は飲めるようになったルイズである。 「そっちじゃねぇ! こっちだよ! テーブルの下だ!」 訝しんだルイズがそちらの方を見てみると、そこには一振りの大剣が転がされていた。 ルイズの中で、やや胡乱になっていた記憶のピースがかちりと嵌る。 「あら、お久しぶりね。デルフリンガー」 だらしなくぐーぐーと寝ている傭兵風の男の足下、そこに転がっていたのはかつての使い魔、あの少年の手にあったインテリジェンスソード、デルフリンガーであった。 当時よりも薄汚れて錆が浮いているようだ、つまりは今の持ち主はその程度ということなのだろう。 「こんなところじゃぼちぼち話もできねぇ、ちょっと俺をそっちのテーブルの上に置いてくれよ」 「私から話すことなんて一つもないわ」 冷たく切り捨てるルイズ、だがデルフリンガーは食いついた。 「そんなこと言うなよ。おめぇさんだって、あのあとのことが気になるんじゃねぇのか?」 「興味ないわ」 取り付く島もない様子のルイズに、デルフリンガーはそれでも引き下がらない。 「いいから俺をそっちにあげやがれ! こうして出会ったのはきっと相棒の導きなんだよっ!」 大声をあげたデルフリンガーに、酒場中の注目が集まる。自然とその方角にいた二人にも視線が刺さった。 「話くらい別に構わないじゃない」 ヘルミーナから「あまり目立つことはするな」という意味の台詞。 ルイズは嘆息を一つ漏らし、仕方なくといった手つきでデルフリンガーをテーブルの上へと置いた。 「いやぁ、それにしても久しぶりだな娘っ子!……って、もうそんな歳でもねぇのか。嬢ちゃんって呼んだ方が良いか?」 「別に。呼び方なんて何だって良いわ」 その声を聞くのも不愉快だというふうにそっぽを向いてルイズはグラスの中身を舐めた。 「つれねぇなぁ……以前はもう少し付き合いが良かったぜ」 「そういうあんたは変わりないようね。凄く気に触るわ」 「そりゃあ、俺はインテリジェンスソードだかんね。ちょっとやそっとじゃ変わらねぇよ」 カタカタと柄が鳴る、ルイズはこれがこの剣が笑うときの仕草であったことを思い出した。 「お前さんは……随分と変わったみたいだな」 ルイズはつまらなそうな顔のまま、デルフリンガーの言うことをじっと聞いていた。 遮る声が入らなかったことを続けても構わないと受け取ったのか、デルフリンガーは言葉を続けた。 「背丈も伸びたみたいだし、ぺたんぺたんだった胸もちったあ膨らんだみたいじゃねぇか。何よりそう、……美人になったよ。もしも相棒が生きてりゃ、きっと見惚れてたと思うぜ」 ガシャン という音が響いた。 酒場を満たしていた喧噪がピタリと止み、一瞬の静寂が世界を支配する。 ルイズはこのとき初めて店内に竪琴を奏でている奏者がいることに気がついた。 客たちの視線が視線が一斉に音の方向へと向く。そこにはテーブルにグラスを勢いよく降ろしたルイズの姿。 その表情は先ほどまでと変わらぬ無表情だったが、凍えるような冷たさを秘めたものになっていた。 静けさはいつまでも続かない。水が低いところに流れ落ちるようにして、すぐに人々の発する騒音に飲み込まれ、取って代わられた。 人々はもう先ほどまでの静寂など忘れたように、飲んで唄って馬鹿話に花を咲かせている。 ただ一つ、ルイズたちの座るテーブルのある一角を除いて。 「……悪かったよ。その服で、気づくべきだった」 ルイズの身につけた黒い服、それが喪服であることに気づけなかったのは彼らしくない迂闊であった。 陶器でできた仮面でも被っているように冷たく非人間的な無表情をしたルイズに、デルフリンガーが詫びを入れる。 「……」 「すまねぇ」 デルフリンガーにとって何とも気まずい沈黙が舞い降りた。 何も喋らないルイズであったが、その無言はむしろデルフリンガーに息苦しい重圧となってのしかかる。 厨房で作られた美味しそうな香りを放つ料理を運ぼうとしていた給仕が、避けて通った。 すえたような臭いを放つ平民の酔っぱらい二人組が、そばを横切ろうとして思い直す。 男のいない席で酒を飲んでいる美女二人を見つけた優男が、声をかけようか考えて結局諦めた。 そういったある種の『触れてはいけない空気』の底に、ルイズたちのテーブルは沈み込んでいった。 「辛気くさくていけねぇ! 話題を変えるぜ娘っ子。それで、あのあとのことはちったあ聞いてんのかい?」 耐えかねたのか、わざとらしいほど明るい声でデルフリンガーが次の話題を提供した。結局呼び名は以前のまま『娘っ子』で通すことにしたらしい。 彼なりの気遣いなのだろうが、それすらも今のルイズには気に入らなかった。 「さっきも言ったけど、そんなことに興味はないわ。知らなくたって別に私は困らないもの」 「んじゃそれでも構わねぇよ。俺が勝手に喋る、お前さんはそれを聞く。これでどうだ?」 「……勝手にすれば」 ルイズはテーブルにあった酒瓶を手にとって、中身をグラスへと注いだ。 舐めるようにして飲んでいたはずなのに、いつの間にかグラスの中は空になっていた。 「お前さんたちがいなくなっちまって、学院はもう大騒ぎだったんだぜ。特に姉っ子二人の慌てようったら……」 そう語り始めたデルフリンガーの昔話は、ルイズにとっては知っている事実と、予想できる範囲の出来事の、実につまらない内容であった。 手紙も残さず消えた名家の子女と怪しい女。二人の失踪は役人によって連れの女による誘拐と判断され、即刻トリステイン中にルイズの似顔絵と背格好、連れの女の人相などが書かれた手配書がまわされた。 しかし彼女たちの行方はようとして知れず、有力な手がかりがつかめないまま時間だけが経過した。 その先の春期休暇、夏期休暇にはルイズの学友たち、キュルケ、タバサ、ギーシュ、モンモランシーによって遠隔地や都市を巡る自力による捜索も行われたらしい。 それでも、彼女たちの学院卒業までに集めることができた情報といえば「それらしい人影がガリア方面に向かう馬車に乗った」という目撃証言だけだったそうだ。 そうして一年と少しの時間が過ぎ、ルイズの同窓たちは卒業を迎え、それぞれの進路へ旅立っていった。 エレオノールとキュルケたち、それにコルベールの嘆願でそのままにされていた寮の部屋も、彼女らの卒業と共に片づけられ、今では別の生徒が使っているそうだ。 同時、休学扱いとなっていたルイズの学籍も正式に退学となり、学院にはルイズが在学していたという痕跡は何もなくなった。 書類の上ではルイズの所持品ということになっていたデルフリンガーにはこのとき、エレオノールに引き取られてヴァリエール家の所有になるか、コルベールが身受けして学院の備品となり、引き続き居残るかの選択肢が与えられた。 そして、結局デルフリンガーが選んだのは第三の選択肢。 デルフリンガーはエレオノールに自分を武器屋に売却して欲しいと頼み込んだ。 どこか一カ所に留まるよりも、世界中を行き来する誰かの手に渡れば、もしかすると再びルイズに出会える日が来るかもしれない。 何よりも自分は剣だ、武器だ。屋敷の倉庫や学院の研究室に放置されるのは、自分の在り方じゃない。 例え持ち主を失っても、次の持ち主の手に渡り振るわれることこそが自分の在り様なのだと、デルフリンガーはエレオノールを説得したらしい。 結果、エレオノールはデルフリンガーの言う通りに彼を武器屋へ売却した。 そうして半年、ついに買い手がついたデルフリンガーは、新たな持ち主の剣となった。 その持ち主とやらが、今ルイズたちの隣のテーブルで気持ちよさそうに寝ているこの男らしい。 「それにしても、ガリアにいたってのは驚いたぜ。それに印象も随分変わっててよ、オデレータオデレータ」 黙ってデルフリンガーの話を聞いていたルイズ。先ほど継ぎ足したはずのグラスの中身はもう半分になっていた。 「馬鹿ね。トリステインなんて探し回っても見つかるわけないじゃない」 ルイズはつまらなそうにそう漏らすと、テーブルの上に置かれたアイスペールから、大きめの氷を取り出してグラスに入れた。 この店の目玉は、店からのサービスとして出される『氷』にある。 普通は高級な酒場で貴族が馬鹿みたいな金額を払ってワインを頼んだ際にボトルクーラーに入れられて出てくる氷。それをこの店ではどんな客にでも、平民でも貴族でも、分け隔てなく出しているのだ。 勿論そのための追加の料金などはとらない。他の店と同じ程度の料金で、きちんとした口にできる氷が出てくるのである。 それには当然ながらからくりがある。 この店にあって他の店にないもの、それがルイズたちの作った製氷器の存在である。 錬金術の研究と応用、そして実践。その上でたまたま完成した製氷器、特に自分たちには使い道のないそれを、ヘルミーナの言い分でこの店に売却したのだ。 それ以来、酒場は連日満員御礼。結果としてルイズとヘルミーナは酒場の店長から、様々な面での便宜を図ってもらえるようになったのである。 「まあ、無事で何よりだ。のたれ死んでやいないか心配したんだぜ」 「……ふぅん」 グラスを手元で揺らすと、中で氷が転がって澄んだ音がした。 別に酒が好きというわけでもない。 ただ、酒を飲んで、やがてその後にやってくる酩酊感は嫌いではなかった。 そういう意味においては、今口にしているそれはワインなどよりもよほど適している。 けれど、今日はなんだか気持ちよく酔えそうになかった。 「まあ、お前さんも色々あったみたいやね」 「そう?」 「見てりゃ分かる」 色々あった、と言われてルイズは自嘲気味に笑った。 確かに色々なことがあった、命を狙われたこともあったし死にかけたこともあった。 錬金術の習得はとても楽しいことだったし、自分の作り出したものが何か成果をあげたときは確かに嬉しかった。 けれど、同時に何もかもが空虚だった。 その空虚の中心には常に一人の少年の存在。彼が隣にいないという、ただそれだけのことで何もかもが色あせて感じてしまう。 刹那的な快楽に身を委ねてみるというのも考えたが、そんなことをしても願うものはえられないと分かるほどには理性的であった。 結果、こうして酒をちびちびとやり、忘れた気になるというのが専ら最近のルイズの楽しみと言えた。 「その後、誰か昔の知り合いとは会わなかったか?」 「ん……タバサは見かけたわね。二回ほど」 タバサ、というか彼女の所属する『北花壇騎士団』というものが、ガリアの暗部にあって結構な知名度の組織であった。 ガリア王国の裏側の顔役ともいえるそこに所属するかつての学友は、今ではルイズにとって同じ業界に身を置く近くて遠いお隣さんであった。 「へぇ、あの青髪か。元気してたか?」 「さあ? あっちは私のことに気づいてないようだったし、私は別にあの子のことなんてどうでも良いからね。体調のことなんて分かるわけないわ」 そう言って薄く笑う。 二度ほどニアミスしたことがあるが、お互いはっきりと顔を見たわけではない。ことが済んだあとに北花壇騎士団に所属するタバサという名の騎士だったと知っただけだ。 「変わったなぁ……」 「さっきも聞いたわ」 「いや、本当に変わっちまったんだなぁって思ってよ。ルイズ、昔のお前さんはそんなふうに冷たく笑うことなんてなかったのによ」 これもまた、予想の範囲内の反応。 「変わったですって? いいえ、むしろ何も変わっていないわ。私は昔のまま、何も変わらず進み続けているだけよ」 「何がだよ。何が変わってないって言うんだよ……あの頃、相棒と一緒だった頃のお前さんと、今のお前さんの、どこが同じだって言うんだよ!」 最初は抑えるように、そして最後は溜まっていたものを爆発させるようなデルフリンガーの叫び。 それを聞いてもルイズは揺るがず、惑わず、静かに応えた。 「サイトを愛しているわ」 「……あ?」 「私はまだ、ちゃんとサイトを愛しているわ。あんたたちとは違う、私はサイトを忘れてないしサイトを諦めてもいない。この手で必ずサイトを蘇らせるわ。そして言うの、きちんと伝えるの、好きだって伝えるの」 そう、何も変わっていない。 この気持ちだけは真実。例え時間と共に記憶が風化しても、この気持ちだけは変わらない。 この先、何があっても絶対に失ってやるものか。 「そうか……お前さんの時間は、あのときのまま凍っちまってるんだな」 寂しそうに呟いたデルフリンガーの声は、六千年を生きながら快活であったこの剣とも思えない老けた声色だった。 「そっちの嬢ちゃん、嬢ちゃんはどうなんだい?」 一瞬、誰に話を振ったのかを理解できない。人の姿をしていないとこういうときに困る、そう思いつつヘルミーナが答えた。 「あら、私のことかしら、デルフリンガーさん」 「おうよ。えっと……すまねぇ、まだ名前を聞いてなかったな」 「ヘルミーナよ。お喋りな魔剣さん」 「よせやい、さんなんてつられるとむず痒くて仕方ねぇ。デルフリンガーで構わねぇよ」 自分に話題が振られることは予想外であったが、その程度でヘルミーナは微笑を崩さない。 「それで、一体何がどう、なのかしら?」 「ルイズが、こう思っているってことを、お前さんはどう思うってことだよ」 デルフリンガーの柄がカタカタと何度も音をたる、それはまるで感情の高ぶりを暗に主張しているようでもある。 「お前さんはこの三年、この娘っ子と一緒だったんだろ。だったら今を一番分かってるのはお前さんのはずだ。そのお前さんから見てどう思うか、俺はそれを聞きてぇって言ってんだよっ」 最後の方は紛れもなく激昂が含まれていた。 デルフリンガーの怒り。 どうしてルイズがこんなふうになってしまったのか、止められたはずだ、導けたはずだという彼の主張。 「すべてはルイズが自分で決めたことよ。それに私はその在り方が間違ってるとも思わない」 そうしてヘルミーナの脳裏に思い出されたのは、古い記憶。 彼女かつて、封印され禁忌とされた伝説の秘技を用いて、一人のホムンクルスを創造した。 ヘルミーナが十歳の頃である。 彼女はホムンクルスに『クルス』という名を与え、本当の家族のように愛を注いだ。 一緒に街を歩き、風を感じ、木陰で休み、ものを食べ、鳥の囀りを聞き、水の冷たさを感じた。 姉妹のような存在はいたけれど、むしろ彼女はライバルで、ヘルミーナにとっては、自分が作り出したホムンクルスこそが本当の弟のように思えた。 ヘルミーナは本当に、惜しみなく彼に愛を注いだ。 しかし、別離は突然訪れた。 人造生命として創造された彼は、試験管の外では二十日しか生きられなかったのだ。 クルスが動かなくなる直前、二人は最後の、別れの言葉を交わした。 ――クルス、思い出、わすれない。 ――え? ――たのしい。悲しい。うれしい。さみしい。くるしい。クルスはわすれない。ヘルミーナとの思い出、わすれない。 ――ありがとう……。あたしもクルスといっしょにいた時間、忘れない。絶対忘れないよ……。 ――おやすみなさい……クルス。さようなら。 忘れてはいない。いや、生涯忘れることはないだろう。 動かなくなった彼を前に、泣くことしかできなかった自分を覚えてる。 彼を作り出したことを後悔した。彼を助けられなかったことを後悔した。 泣いて泣いて、涙が涸れる程に泣いたそのあとに気がついた。 自分にもっと力があれば、こんなことにはならなかったと。 だから私はそのときに決意した。この身のすべてを錬金術に捧げることを。 この悲しみを忘れない。 そして誓ったのだ、この技術を悲しみとともに伝えていこうと。 ヘルミーナは正面に座るルイズを見た。 彼女の在り方は間違っていない。愛するものを忘れず、それを貫こうとする意志は崇高とも思えた。 故に、ヘルミーナはルイズを導く。 自らの錬金術が、人の悲しみを癒やすことができると信じて。 「彼女がそうしたいと望むなら、私は喜んで手を貸すわ」 その答えを聞いたルイズは顔を上げて、しっかとヘルミーナを見返した。 「私は、このまま錬金術の研究を続けたい。そして、いつかサイトを蘇らせたい。今の私が思うことはそれだけよ」 そのルイズの言葉を聞いて、ヘルミーナは小さく微笑みを返した。 出会ったときにヘルミーナの言葉がルイズに届いたのは、同じ痛みを背負ったもの同士の共感かもしれなかった。 もしそうなら、よく似た二人が近い道を歩むことになったのは必然であったのだろう。 「……そうかい。それじゃあ、俺から言うことはもう何もねぇよ」 サイトと心を通じさせたデルフリンガーは、結局最後までルイズと心を通じ合わせることはなく、その言葉を最後に口をつぐんだ。 デルフリンガーの沈黙で話は終わったと判断し、ルイズは席を立った。 続いてヘルミーナも席を立ち、あとに残されたのはテーブルの上の大剣一振りだけ。 先に店の外へ出たルイズとは逆方向へとヘルミーナは歩いて行き、奥にあるカウンターの前で会計を済ませた。 そうしてルイズの待つ外へと出ようとしたところで、ヘルミーナの背中に向かってデルフリンガーから声が投げかけられた。 「あいつのこと、よろしく頼む!」 その言葉にヘルミーナは何も答えず、扉を開けて夜の街へと消えていった。 「なあ相棒、どうしておめぇさんは一人で逝っちまったんだよ……。娘っ子はよぉ、相棒のために大事だった貴族の名誉や大儀まで捨てて、あんなになってまでお前さんを追いかけてるよ。でもよぅ、こんなのがお前さんの望みだったのかよ……答えてくれよ、相棒……」 虚空へと消えたデルフリンガーの言葉に、応えはなかった。 前ページ次ページヘルミーナとルイズ
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【作品名】ゼロの使い魔 【ジャンル】アニメ 【名前】ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 【属性】ヴァリエール家の三女 【大きさ】153サント(153センチ) 【長所】ツンデレ貧乳が流行ったきっかけみたいなキャラ 【短所】名前が長い 【備考】ゼロの使い魔の世界観では長さで「サント」という単位が使われているが才人の身長と比較するに センチメートルと大差ないと思われる 参戦 vol.1
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コダマ名 HP 攻撃 防御 特攻 特防 速度 合計 属性1 属性2 攻撃属性 弱点 耐性 スキル1 スキル2 必要アイテム ちびルイズ 85 90 70 20 60 55 380 地 - 地風 水樹氷 毒岩雷 通りすがりの魔界人 - ルイズカード Hルイズ 125 100 95 50 85 75 530 地 風 地風 水氷 闘毒虫雷地 通りすがりの魔界人 夢想時空 祝福の霊珠 ちびルイズ Hルイズ スキル 1.通りすがりの魔界人(Lv25習得) 混乱しません。 2.夢想時空(Lv50習得) 怯みません。 スペル スペル名 属性 分類 威力 命中 消費 詳細 ちびルイズ Hルイズ 白銀の車輪 地 物理 60 100 0 30%の確率で、自分の速度が1段階上がります。 初期 初期 エオリアンスペース 風 物理 70 100 5 30%の確率で、相手の攻撃を1段階下げます。 15 15 魔界急行片道切符 地 物理 90 100 30 先攻で攻撃できます。 20 20 天使の羊数え歌 風 変化 - 75 15 相手を眠らせます。 レンタル限定 30 バーティカルホライズン 地 変化 - - 5 10ターンの間、状態異常と能力減少を防ぎます。交代しても効果は継続します。 - 35 幻想怪奇弾幕 風 物理 90 100 25 20%の確率で、相手を混乱させます。 - 40 黄泉比良坂強行突破 地 物理 120 100 30 与えたダメージの1/3、自分もダメージを受けます。 - 60 霊天停止 風 変化 - 100 100 相手を麻痺、凍結にします。 - 禁呪 カード効果 アイテム名 装備時効果 契約コダマ 入手(金額) 備考 ルイズカード スペル攻撃時、10%の確率で相手を眠らせます。 ちびルイズ 半吉印の福袋美月堂(500,000)
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戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ (8)虚無の目覚め ウルザの色眼鏡の奥、そこに収められたものからマナが迸り、ルイズへとその奔流が流れ込む。 強大な魔力の放出の余波を受け、ウルザの体も小さく痙攣する。 「そうだ、何もかもを忘れ…一つのことだけを考えるんだ…」 この娘の力を開放する二つの鍵、そのうちの一つを自身のもので代用する。 「それは雑念だ、ファイアーボールなど、使わなくていい…ただ、君の中にあるものを表に出したまえ」 少々強引だが、不完全な形での覚醒であっても構わない。 「そうだ、その中から…取り出すのだ、分離させるのだ、純粋なる力を」 ルイズの焦点の合わぬ瞳がゆっくりと開かれていく。 刹那 閃光が世界を支配する 「――――!っ!ハッ!ハアッ!わ、私、今…!今!今っ!まほ、魔法をっ!」 ―――そうだ、これは私の推測の重要な裏づけになるだろう! ウルザはただ、微笑むのであった。 翌朝、ルイズ、ウルザ、キュルケ、タバサの四人は院長室へ呼び出されていた。 院長室には既に、教員達が召集されていた。 恐る恐る、キュルケが口を開く。 「あ、あの…オールド・オスマン、私達は別に昨日は…」 「今日呼び出したのは、君達が昨日何をしていたかを問う為ではない。君達が、昨日宝物庫で何かを見ていないかを聞くためじゃ」 横にいた、コルベールがウルザの方を一瞥し、話し始めた。 「良いですか?この事はくれぐれも内密にお願いしますよ、皆さん。 実は昨日の夜、宝物庫の一部が破壊され、その中から貴重なマジックアイテムが盗み出されました。犯人は『土くれのフーケ』。最近巷を騒がしている盗賊です。 今日あなた方を呼んだのは、あなた方が荒らされる前の宝物殿に、一番近づいていたからです。」 これには流石のルイズもぎょっとして、慌てて意見する。 「ちょ、ちょっとミスタ・コルベール!それではまるで私達の中に土くれのフーケがいるようではありませんか!」 「いえ、ミス・ヴァリエール。別の生徒が学院から逃げるように去っていった黒いローブの人影を目撃していますから、私達もそうは考えていません。しかし、犯行現場を目撃したとしたらあなた達しかいないのです」 「そんな事言われたって…キュルケ、あんたは何か見た?」 「いいえ、見ていないわ。始祖ブリミルに誓って」 「他の二人はどうかね?何かに気付かなかったね?」 二人も首を左右に振るばかりであった。 「そうですか、分かりました。………しかし、参りました。これで手掛かりは途絶えてしまいました…」 「ミスタ・コルベール。それで、フーケに盗まれたというのはどのようなマジックアイテムなのですか?」 「それは………」 ルイズの質問に対し、コルベールが困ったようにオスマンを見る。 「『禁断の剣』と呼ばれるものじゃ」 「『禁断の剣』?」 「うむ、わしがこの学院の学長になる前、先代の学長の時代以前より学院に保管されておったマジックアイテムじゃ。世界の均衡を崩しかねない強大な力を秘めておると伝えられる品じゃ」 「な、何でそんな危険なものが学院にあるんですか!」 「学院だから、じゃよ、ミス・ヴァリエール。魔法学院に居るのはほとんどがメイジ、それに宝物庫には強力な固定化の魔法がかけられておった。 『禁断の剣』を保管にするに、トリステインでここより適した場所は無いと考えられておったのじゃ。 しかし、その油断を突かれたのぅ、まさか賊に襲われるなど、わしとて夢にも思わんかったからのぅ…」 世界を均衡を崩しかねないマジックアイテム、それが盗まれたこと、そしてその責任の所在が自分達であると追求されることを考えて教員達は青くなるのであった。 「ところで、ミスタ・コルベール、ミス・ロングビルはどこへ行ったのかの?」 「はぁ…それが、朝から姿がなく…」 「この非常時に何をしとるんじゃ…」 「すみません!!遅くなりました!」 噂をすれば何とやら、件のロングビルの登場である。 「ミス・ロングビル!どこへ行っていたのですか!?大変ですぞ!事件ですぞ!」 「申し分かりません!実は…今朝方からの騒ぎを聞きつけて急いで調査をしておりましたの」 「ほほう、流石はミス・ロングビル、仕事が早いのぅ」 「それで、結果は!?」 「はい、フーケの居所が分かりました」 その後、ロングビルの調査によって森の廃屋にフーケが潜伏していることが突き止められたと説明され、『禁断の剣』捜索隊を派遣することになった。 「では、我こそはと思うものは杖を掲げよ」 シーン 「どうした、フーケを捕らえて名をあげようという貴族はおらんのか?」 「ミセス・シュヴルーズ、あなた当直だったのでしょう!?」 「そうですが、ミスタ・ギトーもまともに宿直していました!?」 「そんな事おっしゃるなら、今までだって………!」 「私!やります!」 ここで、誰もが予想しなかった立候補者が現れたのである。 事情を聞くために呼ばれ、そのままなし崩し的に部屋にとどまっていたルイズであった。 すかさずシュヴルーズが反論する。 「あなたは生徒ではありませんか!ここは私達教師に任せて……」 「先生方はどなたも杖を掲げないじゃありませんか!でしたら…私が、私が行きます!」 「そ、それは………」 そこで、教員達は気付いた、この桃色の髪の少女から溢れる自信に。 昨日までのルイズ・ド・ヴァリエールにはなかったもの、それが今のルイズには溢れている。 「ルイズってば、何考えてるのよ……、しょうがないわねぇ――― あたくしも志願します。ヴァリエールには負けられませんわ」 「ツェルプストー、君まで――」 その横ですっと杖を掲げるタバサ。 「え!?タ…タバサ!?あんたはいいのよ?関係無いんだから、こんな馬鹿な事に付き合わなくても」 「私も行く………心配」 「では、この三人、いや四人に頼むとするかの。」 「反対です!生徒達を危険に晒すなんて!」 「じゃあ君が行くかね?」 「い、いえ、私は体調が優れませんので………」 「それに…」 オスマンが視線をタバサに向ける。 「ミス・タバサは”シュヴァリエ”の称号を持つ騎士だと聞いている。この若さでそれを持つ彼女の実力は確実なものじゃ。」 続いてキュルケ。 「ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出身で、彼女の炎の魔法もかなり強力だそうでないか」 そしてルイズ。 「ミス・ヴァリエールは……」 ちらりとその横の使い魔メイジを見やり、元に戻す。 「ミス・ヴァリエールは、数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール公爵の息女で、将来有望なメイジと聞いておる」 ウルザ。 「その使い魔、ミスタ・ウルザはトライアングルメイジだとも聞いておる。 彼の力を持ってすれば、土くれのフーケに遅れを取ることはあるまい」 そして最後に全員に。 「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する!」 「「はい!杖にかけて!」」 私の計画は順調に進んでいる。今度こそ。 ―――ウルザ 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
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autolink TH-0170 カード名:ルイズ 読み:るいず カテゴリ:キャラクター 属性:月 EX:月2 コスト:月 登場位置: ●●● ●●● AP:2 DP:2 SP:2 陣営:魔界 基本能力:なし 特殊能力: 魔界人[0] このキャラの参加していないバトル中に使用する。 このキャラを空き味方フィールドに移動する。 (1ターンに1回まで使用可能) 性別:女 レアリティ:C illust:鳥居すみ 月の1コスト全配置2/2/2。 EX1が結構多くなりがちな月にはありがたい1枚。 チャンプブロックをするだけでは因幡 てゐや、ミスティア・ローレライの方が優秀である。 が、特殊能力が優秀であり、内容はバトル中に使用できるジャンプのようなもの。 DFに出して置いて移動された時や、詰めでAFに移動して殴ることもできるのが強み。 相手ターンでももちろん使用することはできるが相手の攻撃宣言に対応して使うとは出来ないので注意。
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前ページルイズの魔龍伝 8.品評会、その裏で 澄み切った朝の空気はゼロには涼しいぐらいであった。 広がる平原の中、抜き身のデルフリンガーを構え相手と相対するゼロ。 「相棒…次の一撃で決まるな」 「あぁ」 涼しい空気の心地良さも、顔を伝う汗の感触も今のゼロにはいらない。 その全神経を目の前に集中させ全ての意識を相手へと収束させる。 一秒が一時間にも感じられるような時の流れの中、先に動いたのはゼロであった。 「うぉぉ――――――――っ!!!!」 デルフリンガーを振りかざし相手へと飛び掛るゼロ、錆の残る刀身が朝日を受けて眩い光を放っていた。 ……… 景気のいい音と共に最後の薪が綺麗に真っ二つに割れた。 「うりゃぁ!」 すかさず二撃目を加え、綺麗に二等分された半円の薪がさらに半分になり四等分されたのであった。 ゼロの後ろには今朝から割った薪がうず高く積まれている。 「よし、これで今日の分の薪は用意できたな」 「相棒ォ~…」 割った薪を手早く縄で括っているゼロに悲しげな声でデルフが語りかける。 「俺っちは薪割り用の鉈とか、オンボロになったから薪割りで余生を送る斧じゃねぇのよ? 国を襲い民を苦しめる凶悪な魔物とかさ、その力で破壊を巻き起こす悪のメイジとかささ…… もっと斬るべき相手ってのがいるんじゃねぇのかって話よ!」 「ふむ……遠くの山にかさ雲がかかっているな。 そのうち雨が降るとなると、シエスタに言っておいたほうが良さそうだな」 その悲しい語りも何処吹く風、ゼロは空を仰ぎ見て天気の事を気にかけていた。 「聞いてよ俺っちの話!!」 「あぁスマンスマン、聞いてるよ」 「じゃあ分かって剣たる俺っちの叫び!!」 まとめた薪を背負い、デルフリンガーを鞘に収めてヴェストリの広場を後にしながら ゼロはデルフリンガーの訴えを聞いていた。 「今日はお前を使って薪割りをやってみたが、思った程切れ味は落ちて無いな。 これなら十分あの鉄剣とタメを張れるぞ、良かったなデルフ」 「じゃあ斬ろうぜ相棒!西へ東へ相手を求めどこまでもっ!」 「それじゃあお前が何者なのか、どうして外見を分からなくしていた俺を人じゃないと見破ったのか、 そしてお前の言う“使い手”とはなんなのか、正直に話してもらわないとな」 「え、え~っとだな…」 「やっぱり忘れてて思い出せねぇや!悪ぃな相棒!!」 「なら駄目だな、諦めろ」 「くぅっ…ひでーやもう…」 この小うるさい剣が来て二日、ゼロとデルフリンガーの間にこんなやりとりが度々あった。 何がしらあるとはゼロも感づいてはいるものの肝心のデルフリンガーがこんな調子なので ゼロの疑問は一向に解決していなかったのだ。 「あっ、あの風竜とかデケェしちょうどいいぜ相棒!! ちょっとぐれぇ使い魔が減っても問題ねぇや、やっちゃおうぜ!!」 「きゅ…きゅいきゅいきゅいーっ!!??」 朝のひと運動なのか、先ほど森から飛んで来たシルフィードにとってその発言は寝耳に水であった。 荒げたような鳴き声になってゼロへと近寄るシルフィード。 「俺に何するんだぁー!!た、助けてくれ相棒ーっ!!」 「今のはお前が悪い、平和な世界の空を暫く満喫して来れば考えが変わるんじゃないかな」 シルフィードは器用にゼロの右肩鎧に刺さっているデルフリンガーの柄を咥えると、それを引き抜き そのままデルフリンガーと共に再び空へと飛んでいった。 「おーいっ!それは俺の武器だから壊さない程度に遊べよーっ!!」 朝日が眩しい青空に、ゼロの声とデルフリンガーの悲鳴ががこだました。 一方のルイズはというと、まどろみの中夢を見ていた…… またルイズは黒い龍に乗って雷雲の中を突き進んでいる。 「まただ…私は何処へ行くの…?」 行き先も分からずそのまま飛び続けていると雷雲の向こう側が光を放った。 それは段々と輝きを増しながら、形を表しながらこちらへと近づいてゆく。 龍、それは三つ首の黄金の龍だった。 黒い龍に乗ったルイズの目の前へとやってくるとその三つ首龍は悠然と語り始めた。 「少女よ…目覚めるのだ…“聖なる心”に……」 「聖なる心?」 「正義の為に…怒れ…その心……雷……剣に……力…を…与………」 「良く聞こえないわ!あなた、何て言ってるの!一体誰なの!?」 「我…名……スペリオ…ル……」 しかし次第にその三つ首龍の輝きは失せ、その実体も透け始める。 「何者…干渉………少女よ……聖龍の……みちび…」 「ちょ、ちょっと!勝手に喋って勝手に消えるって何なのよ!」 「スペリオル!」 その言葉と共にルイズはベッドから跳ね起きた。 外から鳥のさえずる声が聞こえ、窓から差し込む朝日が部屋を柔らかい光で満たしている。 「夢?」 寝起きのぼんやりした頭脳が先ほど見ていた夢を反芻する。 しかし、意識が覚醒するにつれ段々と見ていた夢の内容を詳細に思い出せなくなった。 覚えているのはスペリオルという名の黄金の龍が自分に何かを語りかけて来たという事だけ。 「…変な夢」 そして、いつものように起きて身支度をするルイズであった。 「品評会?」 「そう、今日は二年生が新しく召喚した使い魔をお披露目する会があるのよ。 近郊の貴族や城から王族が来る由緒正しい行事なの。もちろんガンダムも出なきゃいけないわよ」 「俺の剣は見せ物じゃない、そういうのは俺抜きで勝手にやってくれ」 「何よ、アンタは私の使い魔なんだからケチケチしてないでおとなしく出なさい! あの凄い雷を出せば絶ッ対に優勝するわ!ご主人様の名誉を回復するいい機会なのよ!」 「断る!つまらん欲の為に振るう剣は無い」 ゼロと共に朝の食堂へ向かう最中の出来事であった。 一部生徒が集まった決闘よりは全校行事の品評会ならより多くの人間に認めてもらえると ルイズは熱心にかつ一方的にゼロを説得していたものの、とうのゼロはそういう理由で雷龍剣を見せるのを嫌い けんもほろろにルイズをあしらい「出ろ」「出ない」とルイズと言い争いになっていた。 「なーんじゃなんじゃ、朝からつんけんしとると朝食もまずくなるぞい」 「お、おはようございますオールド・オスマン!」 「あぁじいさんか」 言い争いをしているルイズとゼロの後ろからすっとオスマンがやってきた。 突然やって来たオスマンに慌てて挨拶するルイズと、その姿を認めても慌てる事無く挨拶を交わすゼロ。 「ちょっと!オールド・オスマンはここの学院長なんだからちゃんと挨拶しなさいよ! 申し訳ありませんオールド・オスマン!」 ゼロの後ろに回って無理やり礼をさせようとゼロの頭を押すルイズの姿を見て微笑ましくオスマンは語りかけた。 「よいよい、その品評会の話じゃが朝食の後にワシの所へ来てくれんか?」 「品評会は…出なくていいん……ですか……」 「うむ、ゼロガンダム殿は何せこの世界では例外的な外見と能力を持つからの。 王族や近郊の貴族が集まるあの場で能力や姿を晒せば、アカデミーが動く可能性もある。 ミス・ヴァリエールや、そこは承知してくれんか?お主とてゼロガンダム殿が連れて行かれるのは不本意じゃろう?」 朝食後の学院長室、ルイズとゼロの目の前には机に腰掛け頬杖を付いたオスマンがいた。 「これはまた物騒な話題だな」 「そうとも、王立の研究機関ではあるがその研究のためには手段を選ばない連中じゃ。 ゼロガンダム殿ほどの手錬の者なら彼奴等にやられはせんとも、手に入れるためなら何をするかは分からん」 残念な顔をするルイズではあったものの、アカデミーが絡む可能性があるとなると反論のしようが無い。 ルイズもアカデミーの怖さは噂で聞き及んでいるが、何より苦手な長姉がそこに勤めているのが一番恐ろしかった。 ゼロを捕らえようとするならまずこの長姉が飛んで来るに違いない。 「分かりました…私達はその間どうしたらいいでしょうか?」 「ゼロガンダム殿を品評会の間姿を見せないようにするだけでええ。 ミス・ヴァリエールは品評会に出席しても良いのじゃが、まぁ使い魔がいない以上 やる事もなかろうから欠席でもええわい。教師達にはミスタ・コルベールを通じてワシから上手く言っておく」 「しかし…私も一応公爵家の娘です、出ないとなると実家の方にも話が及んで何か迷惑が……」 「ほっほっほ、なーに心配はいらんて。今はアンリエッタ女王陛下がゲルマニアへ訪問しとる最中じゃ。 主要な王族はそっちに出払っとるし、話題もそっちの方にしか関心がいかんじゃろ」 その言葉を聞いたルイズの顔が少し暗くなった。 「アンリエッタ王女が…ゲルマニアへ……ですか?」 「うむ、じゃから今年の品評会に女王陛下は出席せん。今年は幾分静かに会が進行するじゃろなぁ」 魔法学院中央の本塔と、それを中心とした正五角形の頂点に位置する五つの支塔。 その支塔の区切る一角に置いて使い魔の品評会は開催されていた。 注目の集まる壇上にいるのはキュルケとフレイムである。 「フレイム!」 「きゅる!」 キリッとした声でフレイムを呼ぶとキュルケと同じ様に短く、力強く鳴いたフレイムが炎を吐いた。 口を閉じた状態で放たれた為わずかに隙間のある口の両端から勢い良く炎が噴出する。 しかしそれは前へ向かって絡み合い、まるで二重螺旋のような軌跡の炎を描いた。 「はいっ!」 キュルケが再びを掛け声を掛けると螺旋状の炎がぐねぐねと動きハートの形へと変化していった。 この炎には観客や招待された貴族からも拍手が起こっていた…が いちいちキュルケが動いたりポーズをとるたびに彼女の胸が揺れていたので フレイムというよりはキュルケに拍手しているような者もちらほらといた。 オスマンに至ってはスタンディングオベーションという始末である。 しかし、その隣にはいつもいるはずの秘書であるロングビルの姿は無かった。 続いて現われたのはギーシュである。 しかし壇上には彼一人だけであり使い魔の姿はどこにも見当たらない。 一人立った彼は生徒達観客へ素早く視線を滑らせ、一人の女生徒の姿を見つけ出す。 「見てるかいモンモランシーッ!!今日の舞台は君に捧げるよぉ~~ッ!!!」 そう声を張り上げモンモランシーのいる方へと自分の杖でもある薔薇の造花を向けるギーシュ。 あちこちから失笑がこぼれる中、そのモンモランシーはというとすっかり顔を赤くして強張った表情をしていた。 「あンの…馬鹿…っ!」 「フヒヒお熱いねぇモンモランシー」 「うるさいわね微笑みデブ!」 「はがっ!」 丁度モンモランシーの隣にいたマリコルヌがからかったが、モンモランシーが即座に その顔面に肘鉄を打ち込んだ。 「さて…では僕の使い魔をご紹介しましょうか………ヴェルダンデ!」 その言葉と共に壇上手前の地面がぼごっと盛り上がり、そこから何かが勢い良く跳ね出してきた。 まるで川魚が水面から跳ね上がるようである。 ギーシュがレビテーションを細かくかけながらそれを上手く壇上に落ちるように調整すると 重量のある衝撃音をさせながらそれは壇上へと落下した。 「も゙っ」 それは、1メートルほどの大きなモグラだった。鼻をヒクつかせながら静かにひと鳴きする。 「ジャイアントモールのヴェルダンデです!以後、お見知りおき願います事を!」 「あー…自己紹介はそれぐらいにして、使い魔の技巧を見せてくれんかね?」 「技巧?僕のヴェルダンテはその存在そのものがまさに始祖ブリミルの作りたもうた精緻な技巧なのです! いいでしょうかオールド・オスマン、この毛並みはまさに乙女の持つ艶やかでいてコシのある髪そのもの! 並みいる土を掻き分け突き進む事の出来るこの手は大地に根ざす力の象徴! そして見てくださいこのつぶらな瞳!純粋なジャイアントモールの心を写すようではありませんか!」 オスマンに、いや、この会場にいる者全員に伝えようと声を張り上げつつ手を振りつつ ヴェルダンテの魅力を語るギーシュ、よもやその勢いはそう止まりそうに無かった。 「馬鹿…あれは本当の馬鹿だわ…」 「ゲコ」 教師達によるレビテーションで使い魔共々壇上から強制的に下ろされるギーシュを見ながら モンモランシー、そして手の上にちょこんと乗っている彼女の使い魔であるカエルのロビンは共に 心底飽きれていた。 同時刻、品評会を行っている区画の隣の区画…の片隅 「ファイアボール!」 呪文を唱えるルイズの振るう杖が椅子の上に置かれた石ころに向いた瞬間、石ころが炸裂した。 幸い、シュヴルーズの授業でやった時よりは十二分に距離はとっており 風上に立って行ったため立ち上る黒煙もルイズとは逆の方向へと流れて消えていった。 横に山と積んである石の一つを手に取るとまた椅子に置きファイアボールとは違う呪文を唱える。 「レビテーション!」 やはりその石ころも炸裂した。 「錬金!」 三回目の呪文も失敗し、とうとう台の椅子の方が耐え切れずに崩れてしまった。 「うぅ…基礎中の基礎の呪文でもやっぱり駄目じゃないのよ……」 「大丈夫ですよ、ヴァリエール様ならきっと上手く出来ます! ワインだってすぐ樽から出すよりも長い間寝かせておいた方が美味しいじゃないですか!」 換えの椅子を持ったシエスタがルイズの元へやって来る。 「言うのは簡単だけどねぇ……あと、そのヴァリエール様ってのこそばゆいから、ルイズでいいわよ」 「えっと…ル、ルイズ様…で」 「それも実家のメイドみたいで堅苦しいわね…ルイズさん、でいいわ」 「分かりました…えー…ルイズさん」 「うんうん」 しっくり来たといわんばかりの顔でうなずくルイズ。 「でも、メイドの仕事もあるのに手伝わせちゃって悪い気がするわね」 「いえ…それなら私の仕事を引き受けてくれたゼロさんに…」 「いいさ、彼女がしたいって言ったなら俺も異を唱えんよ」 そう言っているゼロは、本来やるべきシエスタの代わりに洗濯物であるシーツを干していた。 朝と違い、右肩鎧のデルフリンガー以外にも腰にも買った鉄剣を差している。 ゼロとしては何か知っているような素振りをしているデルフリンガーが気になるのだが 『私がお金を出したんだから、そんなボロ剣じゃなくてこの私の選んだ鉄剣を使いなさいよ』 とルイズが頑として主張するので彼女と居る時は腰に渋々差しているのである。 ちなみにこのデルフリンガー、今朝の事もあって洗濯物を干すゼロのこの様子には閉口気味であった。 「俺の相棒が…早くも遠ざかってゆく……くぅっ!」 「しかしルイズは出なくて良かったのか?俺があの場に居ないだけでいいってオスマンの爺さんも言ってたのに」 「いいわよ、やる事ないし女王陛下も来ないんだったらわざわざ出る必要なんて無いわ。 だからこうやって魔法の練習をしてるんじゃないのよ。さ、もう一回やるわよ」 ルイズはまた石ころを椅子に置き、呪文を唱え始めた。 更にそのまた隣の区画 ここには本塔の前に佇んでいる何者かを除いては誰もいない。 その何者かは誰か分からないぐらいに目深にを被り、本塔の壁に手を当てていた。 「材質こそ普通の煉瓦だけど…宝物庫のある階だけは念入りに固定化が掛けられていた…。 スクウェアクラスの固定化を多重にかけてちゃあ錬金で破るのは無理…とすると」 懐から杖を取り出すと呪文を唱え、自分の立っている地面へ杖を向けた。 「物理的に破壊か…でもこの壁、馬鹿にぶ厚いのよねぇ」 地響きと共に、立っている地面が隆起していきそれは巨大な土の巨人――ゴーレムを形成した。 「ま、三獣の武具の為、とにかくやっちゃいましょうか!」 ゴーレムの握り拳が、唸りを上げて宝物庫の壁へと激突した。 前ページルイズの魔龍伝
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爆発自体については、おとーさんは平気でしたが使い魔たちが混乱して暴れています。 「し――― 静かに、娘が起きてしまいます」 おとーさんの電波な言葉で使い魔達は一応落ち着きました。 おとーさんが辺りを見回すと爆発のせいで木っ端や何かの破片が散乱しています。 咳き込みながら生徒たちは机の下から出てきます。 殆どの生徒は無事のようでしたが、逃げ遅れたのか一人の太った生徒が教室の隅でのびていました。 ルイズの方を見ると服はボロボロで全身煤だらけになっています。 「ちょっと失敗しちゃった」 煤を手で払いながらルイズはそう言いますが、生徒からは非難ごうごうです。 シュルヴルーズは最後の気力を振り絞りルイズに教室の掃除と今日一日魔法の使用を禁ずる事を言い渡して そのまま気絶しました。ルイズは元々魔法が使えないのであまり意味はありませんが。 爆発のせいで今日の授業が中止になったので生徒たちはそれぞれの部屋に帰りました。 教室にはおとーさんとルイズの二人だけが残り、爆発の後片付けをおとーさんがしています。 ルイズは机の上に座ってその様子を見ていました。本来ならばルイズが片付けをしなければならないのですが、 私の使い魔だからとおとーさんに押し付けたのでした。 「・・・・また・・失敗した・・・ 」 おとーさんは掃除の手を止め、呟くルイズを見ました。 「いっつも失敗するの。簡単なコモンマジックも使えないの。魔法成功率ゼロ、だから『ゼロのルイズ』ってみんなバカにするの・・・・」 ルイズの肩が小さく小刻みに震えているのがわかります。 おとーさんは知りませんが小さい頃からルイズは貴族の三女として厳しく育てられてきました。 無論そのこと自体はごく普通なことなのですが、ルイズは魔法が使えないため人一倍厳しく育てられました。 ルイズ自身も人の何倍も努力して魔法が使えるように頑張りました。 それは、トリステイン魔法学院入ってからも続けてきました。ですが、どう頑張っても魔法を使うことが出来ませんでした。 その為、学院の生徒から馬鹿にされ平民からも表立ってではありませんが陰で馬鹿にされていました。 貴族としてその事は恥辱でした。また、使えない自分自身にも嫌悪感をつのらせていました。 「・・・サモン・サーヴァントが成功して・・・ おとーさんを使い魔に出来たから・・・ 魔法が使えると思ったのに・・・ なのに・・・」 ふいにルイズは優しく抱きしめられました。吃驚して顔をあげると抱きしめているのはおとーさんでした。 「ちょ、ちょっと、おとーさん何やって・・・」 ルイズがそう言うと今度は頭を撫で始めました。無言でしたがそれはそれはとても優しく。 そうこうしているとルイズの肩がまた小刻みに震え始めました。 「こここ、子ども扱いしないでよ!!!」 ルイズはそう言うとおとーさんから離れ教室の出口まで駆け出しました 「もう、おとーさんの今日の食事抜き!!」 そう一言残してルイズは教室から出て行きました。 おとーさんはしょんぼりした感じでまた教室の掃除を始めました。 おとーさんの掃除が終わったのは正午を少し過ぎたころでした。 ルイズの部屋に帰ろうとしていましたが、今朝の洗濯物の事を思い出してシエスタの所へ行く事にしました。 洗濯場へ向かっていたおとーさんでしたが、美味しそうな臭いがしてきたのでついついそちらの方へ行ってしまいました。 食堂に着いたおとーさんでしたがルイズから「食事抜き!!」を言われたのを思い出してしまいました。 おとーさんはその場で涎をたらしてぼーっとしていました。 シエスタは食堂の外にいるおとーさんに気がついて近づいてきました。 「使い魔さん。お洗濯物出来上がっているので食事の後で渡しますね~って え? 食事抜きなのですか???」 シエスタは少し考えた後 「ちょっとこっちへ来てください」 と、おとーさんを厨房の方へと連れて行きました。 「余り物で作った賄いのシチューなのですけど、良かったら食べてくださいね」 おとーさんはシチューを頂きました。賄いという事でしたが、朝食べた質素な食事に比べたら遥かに豪華でした。そしてそれはとても美味しいものでした 「美味しかったですか? よかった~。食事抜きの時はいつでも言ってくださいね。 え? 仕事を手伝いたい? じゃぁ、このデザートを配って・・・」 デザートを手にとってシエスタはおとーさんを振り返りました。そこにはメイド服姿のおとーさんが居ました。 「あ、あはは・・・・ 別に服まで着なくてもいいですよ」 シエスタは引きつった笑いでおとーさんにそう言うと、メイド服を脱がせて改めておとーさんに手伝ってもらうことにしました。 (私、なんかとんでもない事お願いしたんじゃ・・・) シエスタはちょっと不安を覚えました・・・・
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部屋で身体を拭き着替えを済ませたルイズは、ベッドにうつ伏せになって考えていました。 (おとーさん・・・私を慰めようとしてくれてたのかな・・・) ルイズは貴族として厳しく育てられてきました。その事に恨みも憎しみもありません。なぜなら、貴族として生まれた自分には当然の事だと考えていたからです。 そんなルイズには、あんなに優しく頭を撫でられた事は遠い遠い記憶の中でしかありませんでした。 だからこそ、おとーさんの行動に吃驚しましたし。子ども扱いだと反発したのでした。 (17歳の娘にあの慰め方は無いよね・・・・) そんな事を考えていると激しくドアをノックする音がしました。 「ヴァリエール様、メイドのシエスタです。大変です!!ヴァリエール様の使い魔さんが・・・使い魔さんが・・・」 扉の向こうで涙声で訴えるメイドの声に吃驚したルイズはすぐさま部屋へ引き入れるのでした。 「落ち着いて何があったか話なさい!」 シエスタは涙ながらにこう言いました。 「ギーシュ様とヴァリエール様の使い魔さんが決闘することに・・・」 「何ですって!!!!」 シエスタから事の顛末を聞き、ルイズは決闘を止める為にシエスタと一緒に広場へ走りました。 「大体ギーシュの奴モンモランシーとケティに二股かけて、それがばれたからって何で香水拾ったおとーさんに八つ当たりしてるのよ!!」 ルイズが走りながら文句を言っているとシエスタがこういいました 「使い魔さんは、ギーシュ様から最初は何を言われても何も反論しませんでした。ですが、ヴァリエール様事を言われた途端急に・・・」 「えっ?」 ルイズはそれを聞いて急に立ち止まりシエスタの顔を驚いた様子で見ています。 そして、ルイズはまた走り出しました。 「とにかく止めなきゃ・・・・」 広場に着くとすでにギーシュとおとーさんそして生徒たちの野次馬が揃っていました。 「なんでこんなに集まってるのよ!!」 ルイズは、野次馬を掻き分けなんとかおとーさんの横に出ることが出来ました。 「おとーさん!!決闘なんてやめなさいよ!!」 ルイズの言葉におとーさんは黙って首を振ります。 「ギーシュはバカで女ったらしで二股するような奴だけど、結構強いのよ」 ルイズの台詞を聞いてギーシュは顔を引きつらせながら髪をかきあげこう言いました。 「ミス・ヴァリエール、随分な言い草だね」 「間違ってないでしょ?? それに、決闘は禁止されているはずよ」 ギーシュは青筋を立てながらこう言いました。 「それは貴族同士の話だろう?貴族と使い魔なら問題ないさ。それにもう止められないよ!!」 ルイズは止めることが出来ないと諦めました。 「おとーさん、決闘はどちらかが降参するまでだから。後、貴族は杖を落としたら負けだからね」 そして、ルイズはおとーさんにこう声をかけて生徒たちの方へ向かいました。 「おとーさん、がんばって・・・」 ギーシュは錬金で一体のワルキューレを作り出し 「僕はメイジだ!!だから魔法で戦う。そして、僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュ。 従って、僕が作り出したワルキューレが君のお相手をするよ」 そして、ギーシュは決闘の開始を宣言しました。 ワルキューレは駆け出すとおとーさんに殴りかかります。しかし、ワルキューレの拳がおとーさんに当たる寸前で止まります。 「何っ!!」 ギーシュはギョッとしました。自分はドットクラスでしたが、錬金には自信がありました。そして、ルイズがやっと呼び出した使い魔が相手という事で侮っていたのでした。 その使い魔は、ワルキューレの殴ろうとした右腕を左手で掴むと握りつぶしてしまっていたのでした。そして、右手でワルキューレを殴り飛ばし学院校舎の壁に叩き付けたのでした。呆然としていたギーシュと生徒達の前でおとーさんはこう呟きました。 「おとーさん、本気」 突然おとーさんの左手のルーンが光り始めました。するとどこからとも無く巨大な鎧が出現しおとーさんの身体を包み込みます。 【重装陸戦おとーさんα】 この姿の名前なのですが、ここに居る誰一人として知りませんでした。 しかし、巨大なおとーさんの姿を見て先ほどまでうるさかった生徒達は呆然としています。 ギーシュは叫び声をあげながらワルキューレを6体出現させました。破れかぶれでおとーさんに突撃させましたが。紙くずのように引き千切られて行きます。 その光景に、ギーシュは腰を抜かしてしまい歯をガチガチと震わせています。 おとーさんは6体のワルキューレを片付けるとゆっくりギーシュに歩いていき徐に右腕を振り下ろしました。 その場に居たギーシュを含めた全員が目をそむけました。轟音と共に土ぼこりが舞い上がります。野次馬の生徒達は(ギーシュは死んだ)と思いました。 ギーシュ自身も死を覚悟していましたが不思議と痛みがありません。 (これが死というものなのかな・・・) ギーシュはそう考えながらゆっくり目を開けました。目の前の地面にクレーターの様な大穴が開いていました。そして、目線をあげるといつの間にか元の姿に戻っているおとーさんが居ました。 「謝りなさい」 おとーさんはポツリと呟くと、どこかを見ています。ギーシュが、その方向を見るとモンモランシーとケティそしてルイズが居ました。 「仲良く・・」 ギーシュが再びおとーさんを見ると、おとーさんはそう呟きました。 目を瞑り、深呼吸をして落ち着きを取り戻したギーシュはこう言いました。 「敗者は、勝者に従う。僕はおとーさんに従おう・・・この勝負、僕の負けだ」 その後、ギーシュは三人に対して誠実に謝りました。 「面白い使い魔ね・・・ そう思わない?」 キュルケはタバサにこう言いました。タバサは本を閉じ頷きながら指を差します。 「まるで親子」 タバサの指先には、手をつないで部屋へ戻るルイズとおとーさんの姿がありました・・・
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前ページ次ページBRAVEMAGEルイズ伝 第一章~旅立ち~ その7 光の剣?デルフリンガー 『ゼロのルイズの使い魔が、ギーシュを決闘で負かした』 このあまりに刺激的なニュースに学院はどっと沸いた。 メイジを下す実力を持つ子供が現れた。 いや、ギーシュの慢心によるものだ。 様々な噂が錯綜することとなった夜、ムサシは厨房にいた。 「おっさん!完璧だぜ!これこそおにぎりだ!」 「おう!たんと食ってくれ!能なし貴族の鼻っ柱、よくへし折ってくれたな!」 ムサシの髪を大きな手で撫でる料理長マルトーは、非常に上機嫌だった。 おかげで厨房の雰囲気はすっかり宴会場になっている。 彼の好物『オニギリ』を存分に振舞いもてなし、ムサシのお腹は幸せではちきれそうだ。 「もう、マルトーさんったら……でも本当によかった、ムサシくん……」 「どうしてだい?」 「心配していたの、ムサシくんが負けちゃうんじゃないかって」 通常、ハルケギニアで貴族に平民が逆らうことは自殺行為だと思っていた。 シエスタもそんな常識を持って今まで生きていたのだが、目の前の小さな少年がそれをひっくり返したのだ。 「本当に勝っちゃうなんて。ムサシくん、まるで『サムライ』みたい」 「へへッ、おいらがあんなヘナチョコに負けるわけねえさ!……え?『侍』?」 「あ、私の故郷では、とってもすごい剣の使い手をそう呼ぶらしいの」 聞き返したのは、聞きなれぬ言葉だからでは無い。 ムサシは知っている。 刀を振るう戦士、すなわち自分のことをそうとも呼ぶと。 シエスタがこの地に存在しない戦士の呼称を知っている理由を聞こうとしたその刹那。 マルトーが二人の間に顔を突き出した。 「なんともシャレた異名だなシエスタ!」 「ひゃ、マルトーさん、酔ってるんですか!?まだ夕食の後片付けは残って……」 「よーし!シエスタの故郷に従って、ムサシを『我等が侍』と呼ぼうじゃないか!」 『あっぱれ、みごと、我等が侍!』 「うわぁっ!おいおい勘弁してくれよ!」 厨房がコック一同のどんちゃん騒ぎの場と化して、シエスタは苦笑する。 ムサシもまんざらではなさそうで、やんややんやの大騒ぎだ。 そろそろ食堂の方にも厨房の騒ぎが聞きつけられようか、といったその時。 恐怖の大王のように、それは降臨した。 「誰が恐怖の大王よっ!ムサシ!ムサシはいるの!?」 「ルイズ!?」 厨房の喧騒が、水を打ったように静まる。 ムサシはご主人様のところへ嫌々ながら進み出た。 「なんだよ、ここで飯をもらうことは言っておいたゼ?」 「だからってご主人様よりゆっくり夕食を食べてていいわけ無いでしょ!ほら、帰る!」 「うわっ、引っ張るなって……シエスター、おっさーん。ごちそうさま!」 大騒ぎはさらに騒がしいルイズの登場で一気に終焉を迎えた。 シエスタもマルトーも、ぽかんと立ち尽くしてしまう。 「行っちゃいましたね」 「全く落ち着かない主人みたいだな。同情するぜ『我等が侍』」 どこかからかいのように微笑みながら、ムサシに手を振る。 彼の次の来訪を楽しみにする、厨房の一同であった。 * * その後、オールド・オスマンからのお咎めも無く、ルイズは無い胸をほっと撫で下ろした。 ギーシュも後日、ムサシといがみ合うこともなく話しているのを見かけたし、特に遺恨はなさそうである。 ルイズは使い魔の順応力が優れていることに感心するやら呆れるやらであった。 当のムサシはというと、しばし穏やかな日々を過ごし、満足しているようだ。 朝、ルイズよりも早く起きて剣の稽古。 他の生徒たちの使い魔と駆けまわり足腰の鍛錬。 腹が減れば厨房でおにぎりを貰い疲れたら青空の下でごろりと寝る。 ヤクイニックで過ごした日々と、そう変わり映えはしていない。 ただひとつ、不満な点があるが。 「タイクツだ……どっかに強いヤツでもいねえかな~」 ギーシュとの決闘騒ぎ以来、彼に決闘と呼べる出来事は舞い込むことがなかった。 三度の飯より決闘が好きのムサシにとっては、過ぎたる平穏は不謹慎ではあるが遠慮したいところなのだ。 帝国の刺客、ビンチョタイトの異常による怪生物、そしてクレスト・ガーディアン。 以前の場合は未知の強敵に事欠かない、飽くなき戦いが待ち受ける世界。 しかし今は彼を取り巻く状況が、最初から違っている。 彼はルイズの下僕であり、世界を救う英雄では無かったのだ。 下僕の立場で戦うことなどそうそうなく、ムサシは磨いた剣を持て余す日々を送らざるを得ないのだった。 * * そして数日後、虚無の曜日がやって来る。 いつもの時間に起こしたねぼけ眼のルイズの話によると授業が休みらしい。 着替えに入ったご主人様を置いて、寝袋をしまったムサシは寮の外へと繰り出した。 ちらほらと、他の生徒や使い魔の姿も見える。 ムサシは他人の邪魔にならないよう、人気の少ないところで黙々と鍛錬を始めた。 しばしそうしていた所、最近仲良くしている使い魔がのそのそ、と寄ってくるのを感じる。 「きゅいっ」 「やあ、元気そうだな!」 誰のかは定かでは無いが、恐らく使い魔であろう竜が頭を摺り寄せてきた。 一昨日、昼食の特製『マルトーおにぎり』(例によって残り物の高級鶏肉入り)を半分こした仲だ。 今日はまだ朝食も貰っていないが、それでもいいらしくムサシの鍛錬を眺めている。 ちゃっかりしたことに、こうして近くにいればおこぼれを貰えるという算段らしい。 だがムサシのほうも、別にそれは構わないようだ。 ヤクイニックでもここまで身体の大きい生物は目にしたことがなく、ムサシは興味があった。 この竜だけでなく他の愛らしい使い魔を見ると、ジャンや村の人々がレノを可愛がった事も多少は理解できると言うものだ。 「ムサシくん、おはよう」 「おう、おはよう!どうしたんだいシエスタ」 続く来訪者はなにやら包みを抱えたシエスタだ。 決闘をした夜以降、何かと気を使ってくれている。 腹が空いていないか、着ている物は綻びていないかなどだ。 故郷の弟を思う気持ちや感謝の念がそうさせているようだったが、その度ルイズは面白くないらしい。 シエスタも気を遣ってか、ムサシが一人で居るときに話しかけてくれるようになった。 貴族相手の口調をしなくてもいいせいか、シエスタ本人にもそれは安らぎになっているようである。 この地に珍しい黒髪の二人は、仲睦まじく会話をしていた。 「マルトーさんが持たせてくれたの、朝ごはんに食べてね」 「わざわざ届けてくれたのか?何から何までありがとな」 「ううん、気にしないでいいの。それに私ムサシくんと話していると、なんだかホッとするっていうか……」 「きゅいっ、きゅい!」 「きゃッ!?」 シエスタの包みの匂いに我慢ができなくなったか、青い竜が大きな頭を摺り寄せてきた。 少し驚いたシエスタだが、よしよしと頭を撫でてなだめてやると竜は嬉しそうに鳴き返す。 「わりい、こいつもマルトーさんの飯が好きみたいなんだ」 「うふふ、食いしん坊なのね。ムサシくんと仲良くね」 「ありがとうシエスタ、じゃあな!仕事がんばってくれ」 「ムサシくんもね!」 学生が休みとしても、使用人の彼女にとって休日では無い。 仕事にもどったシエスタにムサシは手を振り、今日も美味しそうな食事を竜と仲良くいただいた。 「うん、初めに食ったパンよりもずっとうめえ。ジャムの店を思いだすな」 「きゅいぃ~っ」 魚のオイル漬けを野菜と一緒に挟んだサンドイッチは、パン嫌いなムサシをも唸らせた。 最初こそ苦手としていたパンだが、ヤクイニックでの常食のひとつとしての習慣が徐々に味覚を変えたらしい。 今ではおにぎりほどではないにせよ、パンも悪くない。 隣で美味しそうに頬張る竜を見ていると、よりそう思える。 「ふうー、食った食った!さて、今日は遠出しようかな…?」 「きゅいっ?」 実はムサシ、一昨日、昨日と学院の塀を乗り越え脱走している。 この塀際で眠っていた竜の身体を足場にし、ゲイシャベルトの力を発揮したのだ。 自分なりに元の世界への回帰を図るという意味もあったのだが、何よりじっとしていられなかった。 彼にこの学院は、少々狭いのかもしれない。 それに、彼は昨日見つけたのだ。 (また"あんなもん"が見つからないとも限らないしな) 深い森の中に、手がかりを。 「悪いけど、また今回も頼むゼ」 「きゅいきゅいっ」 「何を頼むのよ」 ぎょっとしたムサシが振り向くと、身繕いも綺麗に整えたルイズが立っていた。 ムサシが腕の時計を見ると、もう学生達の朝食の時間は終わっている。 黙って外出しようとしたことが後ろめたいこともあり、後ずさりして身構えた。 対するルイズは疑問を抱きながらも、珍しくムサシを見て微笑を浮かべている。 「さ、準備して」 「え?」 「剣を買いに行くわよ」 「変なところ触らないでよね」 「そんなこと言ったって、他につかまる所もねえぜ」 「誰の身体につかまるとこが無いって!?」 頭頂に肘を決めながらルイズが言う。 ムサシの身体に合う馬など流石に無く、二人で一頭の馬を使わざるを得なかった。 やいのやいの言いながらの珍道中は2,3時間続き、ようやく目的地の街にたどり着くことができた。 「随分人がいっぱい居るんだなあ」 「トリステインで一番大きな都だもの、当たり前よ」 ムサシが知る城下というのは、ヤクイニック城下村だけだった。 目の前に広がる光景は、人々が狭い道を所狭しと行き来しているもの。 穏やかな農村であった城下村とは、似ても似つかない。 これも文化の違いか、とムサシはどこか新鮮さを楽しみながらルイズの後に続いた。 「そんなにきょろきょろしてると、田舎者扱いされるじゃない。ほらこっちよ」 「ああ。にしてもなんで、剣を買ってくれるなんて言い出したんだ?」 ムサシは当然の疑問をぶつけた。 使い魔への要求はあっても、ルイズからの施しなど食事がいいところだとばかり思っていた。 ルイズは硬直してギギギ、と音を立てそうな仕草でこっちを向いた。 「そ、それはあれよ…この間あんた言ってたじゃない」 「?」 「ほら!"ニトウリュウ"って……あんた、剣二本持ってたほうが強いんでしょ?」 ルイズがごにょごにょとムサシの方を見ないでつぶやく。 本人としては主が使い魔にご褒美をやっているつもり、なのだ。 だが対象がムサシという異性であるせいなのか─ (ルイズもおいらと一緒にもっと、強くなろうぜ!) (うっせえ!!決闘だ!!ルイズに謝れ!!) 「つ、強いほうが役に立つじゃない……それだけだからね!!」 「なんだよ?変なルイズだな」 「うるさい!」 それとも、自分にも解らないうちに他の意図ができたのか。 ルイズはやけに気恥ずかしく感じてしまっていた。 * * うらぶれた路地の武器屋は、サビた匂いがぷんと鼻を刺激する。 ルイズは顔を軽くしかめたものの、ムサシにとっては慣れた臭いだった。 客に気づいた店主が佇まいをのっそりと直し、二人を値踏みするような目で見つめた。 「いらっしゃってくだすってなんですがねえ、うちは貴族様に目をつけられるようなことなんかしてませんぜ。 至極真っ当な商売をしてまさあ」 「客よ」 ルイズが腕を組んでふんぞり返るのを見て、ムサシも倣って腕を組む。 店主はその言葉に驚いて目を見開いた。 「こりゃおったまげた。貴族が剣をお求めですかい?」 「だって、使うのは私じゃないもの」 「へぇ、ではどちらさんで」 「おいらだぜ!」 カウンターから乗り出した店主が、ムサシの姿を認める。 とたんに豪快に笑い出す。 突然の態度の豹変に、ルイズとムサシはむっとした。 慌てて畏まった店主が身を縮ませ弁明する。 「し、失礼貴族様。ですがねえ、こんなチビ助……ああいやお子様に振るえる剣が、 この店にありますかねえ」 「なんとかしてよ、ここ武器屋でしょ?」 「ナメてもらっちゃ困るぜ、おっさん!」 ムサシが不服そうに腰の名刀を鞘ごと抜き出し、掲げる。 鯉口を切った瞬間閃く真・雷光丸の黄金の剣光を見るやいなや、途端に店主の目が光った。 「……おぼっちゃん!その剣、言い値で買わせていただきやしょう!!」 「売らねえよ!こいつくらい良いモン、置いてないかい?」 目がらんらんと輝く店主がずずいと迫ってきて、ルイズとムサシは後ずさった。 途端にしょぼくれて老けこんだ店主がしぶしぶ店の奥に引込み、いくつか剣を用意してきた。 最初に差し出したのは、長さはここの世界で言うと一メイルほどの細剣。 細やかな装飾のレイピアだった。 「えー、確かに最近従者に剣を持たせる貴族もおりましてね」 「やる気出してくれない?客よ私ら」 「こいつぁ失礼。それというのも、トリステインで話題の盗賊というのが居るかららしいんですわ」 「盗賊?」 店主の話では、なんでもその盗賊は『土くれ』のフーケと言う通り名らしい。 貴族のお宝を片っ端から盗みまくる賊で、皆が皆恐れを抱いている。 故に、自衛のために従者に剣を持たせるのが流行しているそうだ。 ムサシは"盗賊"というフレーズに目を輝かせるがルイズは気づいていない。 剣を眺めながらふうん、とその話に相槌を打ちつつ首を捻っている。 「若奥様、ご不満でも?」 「剣のことはよく解らないけれども……細くない?これ」 「ああ、おいらにゃ細すぎるぜ」 「お言葉ですがねえ、この子の身体にゃ正直これくらいしか合いやせんぜ?」 店主はそう言うものの、ムサシの力を垣間見ていたルイズは難色を示す。 すると、剣を振るう本人がすっ、と進み出た。 「まあ見てなっておっさん」 「うん?」 それは 剣と言うにはあまりにも大きすぎた 大きく ぶ厚く 重く そして 大雑把すぎた それは 正に鉄塊だった ─とでも評されそうな片刃の剣が、店の隅に置かれていた。 よく見れば奇妙な二つの穴が開いている、どこかで金髪のトンガリ頭が振るっていそうなその巨大な剣。 ムサシは"片手"で持ち上げた。 「は!?」 「こいつはちょっと長えけど、このくらいの段平でいい剣はねえか?」 自分の使い魔がゴーレムを細身の刀で両断するほどのパワフルな子供なことは知っていたルイズ。 だが、改めてその怪力を見て驚くやら呆れるやら。 初見の店主はと言うと、くわえていたパイプをポロッと落としてしまう。 ムサシがその鉄塊をぶんっ、と一振りして元に戻したのを見て、店主がバタバタと店の奥へと引っ込んだ。 「あんた…持てるのはいいけど、本当にあんな剣使えるの?」 「おいらはもともと、この鞘に入るくらいの剣を使ってたからな」 ムサシが背中につけた朱塗りの鞘を見せる。 本当にそれに合う剣など存在するのだろうか、と言わんばかりの大きさであった。 「無茶苦茶ねあんた……」 「お待たせしやした!!こちら、こちらはどうでございましょう!一番の業物ですぜ」 見事に飾り付けられた、装飾の無いところを探すほうが難しそうな剣が出てきた。 長さは先程の剣の倍ほどもあり、かなりの幅広の大剣である。 店主が言うには、魔法も込められており鉄をも切り裂く逸品だとか。 「ムサシ、これすごいじゃない。綺麗よ」 「えー……ルイズ、おいらこんなゴテゴテした剣は好みじゃないぜ」 「何言ってるの!その刀?だっけ、それだって金ピカじゃないのよ。もう一本も当然こういうのでしょ」 ともかく手にとってみなさい、と店主に鞘ごと剣を渡すように言いつける。 しぶしぶその剣を取ったムサシ。 ルイズは店主に値段を聞いていたが、不意に大声を上げた。 「エキュー金貨で2000!?庭付きの屋敷が買える値段じゃないの!」 「そう言われましても言わずとしれたシュペー卿の作品でさぁ、このくらいが妥当ですぜ。 なにより剣は命を守るモンでしょう、値が張るのも仕方のないこってす」 「本当なのかしらねえ……」 ルイズはやはり買い物慣れしていないようで、ぼったくりに遭っているのでは?とムサシは心配になってきた。 鑑定屋のボリーじいさんでもここにいればその目利きが大いに役立っただろうに、という思いに駆られる。 すると、はたと気づいたように額の眼鏡を掛けて、まじまじとその手の剣を眺めた。 「?あんた、目が悪かったの?」 「いや、こいつは見たモノを鑑定できる伝説のゴーグルなんだぜ……えーっと、どれどれ。 『ゲルマニアのシュペー卿が鍛えた剣。だが実戦で使うには値しないおかざりの剣で、 鋼鉄を斬るどころか岩にすら負けてしまう 200エキュー』 ……なんだおっさん、こりゃとんだなまくらだぜ!?値段も一桁違うじゃねえか!」 「な、ななな」 「はぁ!?ちょっと、どういう事よ!」 「すすす、すいませんでしたぁーっ!ちょ、ちょっとした手違いみたいで……ええと……」 「ぶわーっはっはは!!とんだチビどもを相手にしちまったな!!」 店主が詰め寄る二人にあたふたと言い訳を連々並べていると、途端に笑い声が響いた。 店に自分たち以外の客がいないはずなのに、とムサシとルイズは驚いて辺りを見回す。 「デル公、今取り込み中だ。お客様にそんな口を利くんじゃねえやい」 「そんな冷やかしのチビ助二人がお客様たぁ、お笑いだ」 「ちょっと!さっきから誰よ、失礼な!」 「こっから声が聞こえたぜ?」 背の低いムサシが、店の一角の棚に手をかけて顔を出す。 するとそこには剣が置かれている。 錆が浮き古びた雰囲気の漂う剣の鞘が、カタカタと鳴りそこから音が漏れているではないか。 「しゃべる剣?驚いたな、どこにでもあるもんだ」 「これって……インテリジェンスソードじゃない?」 「ええまあ……意思を持つ魔剣なんて言われてますが、とんだ厄介モノでさぁ! 客に悪態ついて喧嘩売るわ、脅かして追い返すわでこいつのせいで商売あがったりで…… デル公、今度という今度はてめえをドロドロに溶かしちまうぞ!」 「へっ!やってみやがれ、こんなしょぼくれた店にゃあもう飽き飽きしてたんだ!願ってもねえ!」 店主がずかずかと歩み寄り、お喋りな剣を取り上げようとする。 そこにムサシが口を挟んだ。 「待ってくれ、溶かす前に見せてほしいぜ」 「ムサシ、あんたこんな剣がいいの?」 あからさまな難色をルイズは示す。 どう贔屓目に見積もっても、こんな錆まみれの剣は趣味に合わなかった。 こんな見窄らしいものしか買い与えられないのか、とキュルケあたりが指差し笑うに違いない。 しかし、当のムサシは興味深げだ。 「おいらが前使ってた剣も、しゃべったからなあ」 「えっ……あんた、どんな剣使ってたのよ…」 ムサシが以前愛用していた剣、光の剣レイガンド。 その剣もまた、冒険の最中ムサシに語りかけたことがあった。 と、言っても正確に言えばレイガンドでは無く、そこに封じられた魔人が語りかけたというのが正しい。 ともあれムサシにとってこんな異郷の地でもまた、しゃべる剣に出会えたという奇妙な縁に心踊っていた。 兵法者にとって、物珍しい武器というのは否が応でも手にしたくなるものである。 ムサシはデル公と呼ばれた剣を左手に握り、鞘から抜いた。 柄から切っ先までをじっくりと眺めて、正眼の構えを取ってみる。 「へ、ナリはチビだが案外サマに……お?」 「どうかしたのか?」 「こりゃおでれーた、ガキと思って見損なってた。お前ェさん『使い手』だったのか?」 「なんだい、その『使い手』ってのは」 ムサシは再び『エキシャゴーグル』をかけ直しながら尋ねた。 伝説の武具の能力でこの剣を鑑定する。 銘は『デルフリンガー』というらしい。 なるほどそれでデル公か、とムサシは納得する。 と、握る左手が熱を持っている感覚がして目を向けた。 見ると、朱の篭手の下から光が溢れている。 外してみると、使い魔の契約のルーンが輝いていた。 ムサシは、ルイズと二人で目を見合わせる。 「えーっと『使い手』ってのはアレだ、ほら。あーっと…えー、すまねえ!はっきりとは覚えてねえ」 「なんだよそれ?」 「はっきりしない剣ねえ……ねえ、サビてるし胡散臭いわよこいつ。相手にしないでおきましょ」 「人を見た目で判断するたぁ、まだまだ青いなピンク女。ピンクの割にな」 「剣じゃないあんた」 危うく刀剣にツッコミを入れそうになったルイズが手を引っ込める。 ムサシは黙々とデルフリンガーを鑑定していたが……やがて、驚いたようにゴーグルを外した。 「ルイズ、おいらこいつに決めたぜ」 「えー!?嫌よ私、こんなボロっちい剣」 「おいおい使うのはこっちの小僧だろうが!おい親父!俺の値を言ってみろ!特価だろ!?」 抜身のデルフリンガーがムサシの手でバタバタと喚く。 先程までのからの態度の豹変ぶりにルイズはぎょっとした。 「鞘込みで100って所で結構でさ。この店で一番のがらくたで良けりゃそれくらいでお譲りしましょ」 「おいちょっと安すぎやしねえか!?しかもがらくたたぁ言ってくれるじゃねえか、表出ろ親父ぃ!!」 「お前、買われたいのかそうじゃねえのかハッキリしろよ……」 「言っとくけど100以上なら買わないわよ……」 半ば呆れてきた二人だが、ルイズの財布を開いて覗き込んでみる。 100しかなかった。 な、とムサシが片目を瞑る。 ルイズは口を尖らせながらも、しぶしぶ勘定を済ませるのであった。 「うるさくなったら、この鞘に入れりゃ黙りますぜ。できるかい坊主」 「おう!朝飯前だぜ」 ムサシの背には新たに三本目の鞘が括られる。 彼の身の丈ほどの大剣と呼べるサイズだというのに、器用にムサシは背に剣を収めた。 店主はムサシの頭を大きな手で撫でて笑いかける。 「そいつは愛想が悪ぃなまくらだけど、面倒みてやってくんな」 「ありがとな、おっさん!いい買いモンしたぜ」 「あばよ!俺っちのいない余生は辛気臭ぇだろうが、楽しみやがれ」 なんだかんだで、すっかり人が良くなった店主に手を振って二人と一振りは店を後にした。 店を出て、大通りを逆行して外へと向かう。 しかし、ルイズの方はと言うと未だ納得していないのか憮然とした様子であった。 「ホントにそんなので良かったのかしら……こんなヘンテコな剣じゃ笑われるわよ?」 「おい娘っ子、言うに事欠いてヘンテコはねえだろぉが」 「いや、ルイズ。こいつはとんでもない掘り出しモンだったぜ?」 「うそぉ?だってこんな骨董品以下の剣……」 ルイズは訝しげに背中で揺れる剣を眺めた。 どんな物好きだってゴミとして捨てそうなその外見を見て、改めてため息が洩れる。 「娘ッ子ぉ、そりゃねーぜ。そりゃ俺、いろいろ忘れてるけどもさ」 「いいよ、帰ったら説明するからさ。これからよろしくな、デルフリンガー」 「おう、俺っちのことはデルフでいいぜ。相棒、名前を教えてくれや」 「おいらは、ムサシだ」 人ごみを抜け、都の外に繋いである馬に乗り込む。 日はまだ正午、といったところか。 「ちょっと!何で私の前にあんたが乗るのよ」 「後ろにしがみつかれるより、こっちのがルイズのが楽だと思ってさ」 「い、いいからあんたは後ろ!しがみつかれて嫌がるほど心狭くないわ!」 「ケケケ、言うねえ娘ッ子。本心は違うんじゃねぇか」 帰路は行きより、少し騒がしくなりそうであった。 前ページ次ページBRAVEMAGEルイズ伝